北九州市立大学同窓会
支部組織
豊前・築上支部
豊前・築上の風景
当支部をより一層理解していただくために、会員の生活の場であり、かつ活躍の場である豊前築上の風物を多角的に紹介する。
当地は福岡県の東部に位置し、大分県中津市に隣接していることから、西部の築城町・椎田町は経済文化とも北九州圏に、中心の豊前市および東部の吉富町、新吉富村、大平村は中津圏とされている。この違いは明治の廃藩置県以前の小倉藩と中津藩に基づくものである。
ことのほか教育熱心な地域で普通高3校、職業高と全日制定時高の計5つの県立高校を有することからも人材育成の熱意が窺われる。
地形を考察すると、南に耶馬・日田・英彦山国定公園の一角を占める主峰犬ケ岳(1,131m)に連なる山並みがある。山頂の九州自然歩道沿いのツクシシャクナゲ(5月中旬が見ごろ)の大群生地は国の天然記念物に指定されている。南の山並みから北の周防灘(瀬戸内海の一部)に向かって扇状形に幾つもの谷が形成されていて、谷の中央を川が貫流している、このような谷間と川の流域が行政区、つまり市町村を成している。
次に各市町村を西部より東部へと概括的に紹介する。西端の「緑と史蹟の町」築城町を代表するのは国指定天然記念物の本庄の大樟(推定樹齢1900年、樹高23m 、幹周21m )は日本三大楠の一つで、木芯部は空洞で5本の柱に支えられている。町内の史跡の多くは黒田氏によって滅亡されるまで400年にわたってこの地を支配してきた宇都宮氏にかかわるものである。宇都宮氏に代わって支配者となった小笠原氏の厳しい年貢の取り立てに抗して、村に来る役人に対して自らを道化ものとした寒田(さわだ)話の一部を紹介する。
(前略)
「ではお茶の実を所望しておったが、あるか」
「ハイ、茶のみは寒田の特産でございます」
「それじゃ、茶の実を出せ」
「これが寒田一の茶飲みでございます」
「何、これが茶の実か!こんなものから茶が生えるか!」
「はい、年はとっていますが這えます」
ざっとこんな具合で役人を愚弄する民衆のしたたかさ が読み取れる。 JR築城駅の海側の航空自衛隊築城基地(椎田町)は 11月の航空祭ではブルーインパルスの飛行ショーがあり、10万人の人出で賑わう。
「教育文化かおる豊かな田園都市を目指す」椎田町の山深い岩丸谷には地域住民がいわまる共和国を構えている。そして極楽寺谷にはフランス料理のピラ・パラディ、河口沿いに近郊随一の桜並木、海岸には菅原道真公ゆかりの綱敷天満宮がある。元旦の初日の出、2月の千本梅林は見事である。また学問の神様らしく合格祈願の絵馬が所狭しと幾重にも奉納されている。
この浜宮海岸は県立公園としての整備が進み、潮干狩りなど格好のレジャースポットでもある。ほかに農業公園アグリパーク、ゴルフ解説者坂田信弘の所属する周防灘カントリークラブがある。町役場の一角にはスターコーンFM(76.7MHz)が開局し、情報発信基地としてさらなる期待が高まっている。
さらに国道10 号を進むと豊前市の西の玄関「道の駅・豊前おこしかけ」に着く。この地は遠い昔の山越えの道、山陵の先端を迂回する海沿いの道、山を切り開いた現在の道と道の変遷が見られる。この駅は地元の産物と近代的なしゃれたトイレが人気の的となっている。東方に豊前市街地が展開する。一際高い煙突は九州電力豊前発電所、手前は能徳工業団地、八屋漁港、遠くに県営宇島港、宇島工業団地、
宇島漁港とつらなる。
南の犬ケ岳の手前が山岳宗教のメッカとして有名な求 菩提山(782m)で平安時代の最盛期に500を超える僧坊があり、この山麓一帯には修験道にかかわる多くの遺跡がある。県立求菩提資料館は国宝銅板法華経をはじめ、仏像、神像、古文書など2,000点近くを収蔵し、年間5万人の来館者がある。日本の都市公園百選に選ばれた天地山公園は緑と花にあふれた静と動の空間である、つまり大人には安らぎを、子供には遊びを、心ゆくまで満喫 してもらえる公園である。名水ばやりの昨今、「遊の里畑冷泉」と「千手観音(重文)をまつる堂裏の岩清水」 は人気絶大、また山間の求菩提温泉「卜仙の郷」と市街 地の豊前温泉「天狗の湯」はいずれも大好評である。
「豊かな空と水と緑の里」新吉富村の入り口は二つ目道の駅「しんよしとみ」(遺跡前)である。大ノ瀬官衙遺跡に隣接し、のどかな田園風景と豊富な農産物が楽しめる。村の中心部にはげんきの杜歴史民族資料館、覚円寺・木造薬師如来座像(県指定有形民族文化財)、その他矢方毘沙門天、山田古墳、巨石墳、バクチの木、宇野古墳など村指定文化財がある。垂水廃寺跡では百済系瓦と新羅系瓦が見つかっている。桜の名所牛頭天王公園からは犬ケ岳に連なる山並み・中津市街・周防灘が一望に収められる。また地区には日産自動車系列のユニシア九州、日本プラスト、東泉プラストの各九州工場があり活気を呈している。
福岡県最東端の「大きな心と平和な村」大平村にも国道10号沿いに「さわやか市大平」がある。ここでは大平ブランドの農産物や手づくり加工品が好評であり、併設の「大平麦酒館」で賞味する豊潤な香りとコクの地ビールとピザは「大平」の名を忘れ得ぬものにする。すぐ近くの自然とふれあう大池公園は近代的なログハウスに宿泊できアウトドア派のスポットとして広く知られており、その一角には現在温泉掘削中である。信仰の山、求菩提山の一翼となっていた松尾山のお田植祭は800 年の 歴史を持ち、1年間の稲作作業のすべてをまねて、その年の豊作を祈る祭りである。
霊峰英彦山を源流とする山国川は県境の川であり、大平村の対岸は、頼山陽をして「筆舌に盡しがたし」と筆を捨てさせた景勝地である。なかでも菊池寛作「恩讐の彼方」の舞台となった耶馬渓・青の洞門は、観光の最大スポットとなっている。
吉富町は、この山国川の河口にあり、対岸は福沢諭吉で有名な大分県中津市である。町の北は周防灘に面し、沿岸一帯は吉富製薬が占めている。
神様が相撲をとる町で、こんもり繁った森が八幡古表神社である。この神社に伝わる傀儡子(国重文・有形民族)は鎌倉時代の作で、八幡大社の総本山・宇佐神宮(宇佐市)の放生会において奉納する細男舞、神相撲のために作られたものである。御舞人形20体、相撲人形22体、行司1体、四本柱人形4体の計47体がある。
重文の女神騎牛像(鎌倉末期作)は、四年に一度、放生会の際に、細男舞、神相撲の神々の御神像(国重文・有形民族) とともに、氏子・参拝者の前に姿を見せる。鈴熊寺のご本尊は薬師如来座像(国重文)である。町の中央にある小高い丘の天仲寺公園は、幕末の剣聖・島田虎之助(勝海舟の師)が若き日、一人剣法の修練に精進した地であ る。この公園には小笠原氏三代の墓や巨石で構築された横穴古墳(6世紀末)がある。
鳥谷 慶司