北九州市立大学同窓会

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大分支部 支部だより

千綾奉文(S43・商)
2021年4月

<ハンコ文化がなくなる!>

テレワークを推進しようと政府は昨年6月、押印のための出社や対面での作業を減らすため企業や役所で使われている取引の契約時に必要な押印などは必ずしも必要としない、メール履歴などを契約の証明にできるという見解を示しました。
ということは、これまで長い間続いて来た日本の紙とハンコの文化が無くなるのかとメディアでも大々的に取り上げられました。
そこで私たち大分支部の幹事で、県庁や市役所近くに店舗を構え印房を営んでいる
安部嘉彦さんにその後の状況などを聞きました。

 私たちにとっては初耳で驚きでしたが業界では ―
    
3年位前の安倍総理の時、森友問題で文書改ざんの記録を調べることができるようにと国会関連の文書をすべてデジタル管理するよう指示が出されました。これを「デジタルガバメント」と称し、併せて法人印・銀行印についても使用しない社会をつくるべきと国会議員を中心としたチームが結成されたという経緯があります。これに対して我々業界は伝統文化を守るべきと激しく反発して施行をもう少し遅らせるという結論に達しました。

― 政府がデジタル化によるハンコ不要を発表して以降、この4月初めての年度を迎えました、現場での影響は ―

ゴム印の注文は確かに減りました。特に役所の受付印・回覧印は不要になったところもありましたが実印・銀行印・法人印はわりとコンスタントに注文がありました。
ところが1件当たりの発注個数が激減し、例えば市役所関係では例年に比べ3分の1の金額にまで落ち込みました。

 大分市の市報でも ―

4月1日から行政手続等の押印は原則不要になる。
全行政手続きのうち約96.3%に当たる手続きについて記名を基本とする。
・押印が不要となる主な手続き
 戸籍証明等、各種市税申告書、児童手当等
・押印が存続する主な手続き
 契約書、金融機関の届出印、印鑑証明との照合など本人確認が必要な手続き

と告知されています。 

 実印は私たちの世代にとっては社会人と認められる証しとしてお祝いに贈られたものです ―

実印は個人の財産を守るもので最も大切な印鑑です。実印はこれから先も必要とされるでしょう。お蔭様で親子代々にわたって実印の作成依頼を頂き感謝しています。

 お父さんの代からのお店ですが安部さんの代で閉じる? ―
     
残念ながらその可能性が高いですね。印鑑職人が他の業種に比べて社会的地位が低いことや収益性の問題(労力に見合う対価が得られない)といったようなことで、全国的にも印章店は激減しています。これから先、ペーパレス化が進み印鑑類の需要は減っていくと予想されますのでこの傾向はますます加速されるのではと危惧しています。

 印鑑への思い入れがあれば ―
     
小さい頃からよく親父の手伝いをしていました。高校の時はバイクも買ってもらって夏休みはほぼ毎日配達をしていました。時代の流れで一見印鑑の重要性が低くなったような感覚がありますが実際はそういうことはありません。自分が作成したものがお客さんに使っていただけるということに喜びを感じますね。印鑑はそんなに頻繁に作るものではないのでお客さんもどこで購入したのかを結構覚えているものです。この前は印鑑作成していただき有難うございましたと言われた時の、「この前」は10年位前の事だったりします。それだけ覚えてもらってしかも使用していただいて感激です。私の手が動くうちはできるだけ多くの皆さんに貢献できたらと思っています。

 現役学生にメッセージがあればどうぞ ―

人それぞれ生まれた環境、生活パターンに違いがありますが、理想にこだわりすぎず柔軟に対応していけば意外と適職が見つかるものだと思います。但しプライドをもって仕事をする事はとても大切ですね。

安部嘉彦
  H1・北九州市立大学・大学院卒
  大分県印章事業組合 会長
  九州印章事業組合 副会長
  H18年、「印匠」称号取得
  H24年、大分市技能者表彰受賞

  安部印房:大分市府内町2-6-20