北九州市立大学同窓会

HOME > 活動> 大学だより >学位授与式

大学だより

平成29年度 第67回学位授与式

 平成29年度の学位授与式が3月24日(土)、北方キャン パスの体育館兼講堂で行われた。本年度学位が授与され たのは、学部卒業生1,322人、大学院修了生195人(修士・博 士前期課程修了生147人、専門職学位課程修了生37人、博 士課程後期課程修了生11人)の計1,517人(男性795人、女 性722人)。
 フロアに並べられたいすには、先ほどまで校庭で談笑 していたスーツ姿の男子卒業生・修了生、色とりどりの袴 や振り袖を着て、髪飾りをつけた女子卒業生・修了生が着 席。会場後方と2階席は、卒業生・修了生の保護者が詰め、 式典を見守った。
 学位授与式は午前10時、在学生吹奏楽団が奏でるファ ンファーレで始まった。
 松尾太加志学長が総代4人に学位記を授与した後、告 辞。松尾学長は「卒業生・修了生の皆さん、学位を授与され るということがどのような意味を持つのか考えてみてく ださい」と切り出した。人工知能と人間の学びとの根本的 な違いを明らかにしたうえで、学長は「学位は、数多くの学 びを経験してきたことを示す証です。単なる知識や技能 の積み重ねではなく、出会いを通じて紡がれた学び、それ が皆さんの学位の証であるのです。そして、新たな社会に 飛び込んだ時に、次なる学びの出会いへの大きな糧にな ることを保証するものです。皆さんにとって、北九州市立 大学での学びが、新たな学びに活かされるときが巡って 来ることを願います」と結んだ。
 津田純嗣理事長は「これまで皆さんの成長を見守り、支 えてくれた方々への感謝を忘れず、本学の卒業生である ことに誇りを持ち、自らの人生を切り拓いてください。皆さ んが新天地で大いに活躍されることを祈念いたします」 と挨拶。
 来賓の北橋健治北九州市長、井上秀作北九州市議会議 長が祝辞。井上議長は、本学の卒業生で、日経ビジネスが 「次代を創る100人」のトップに選んだ岩元美智彦・日本環 境設計代表取締役会長(北友会会報卒業祝賀号に掲載) に触れ、「皆さんもそのDNAを持っている、活躍を」と述べ た。
 祝電が披露された後、在学生を代表して菅田翔也さん (比較文化学科)が「皆さまの目の前にはそれぞれの道が ありますが、大切なのはどの道を選ぶのかではなく、どれ だけ精一杯頑張れるかだと思います。自分の進むべき道 を信じて、一歩一歩前へ進んでいって下さい。皆様のご活 躍とご多幸をお祈りいたします」と送辞。
 これに応え、卒業生・修了生を代表して大庭亜美さん (地域創生学群)が謝辞。「私が地域創生学群への入学を 決めたのは2011年の東日本大震災がきっかけでした」と 語り始めた。高3の夏に宮城県を訪れ、被災状況を見て回 り、「被災地での出会いとこの経験を1回きりにしたくない と心の底から思い、大学生になっても支援活動を継続す るために北九州市立大学を選びました。(入学後は)半年 に一度東北を訪れ、支援活動を続け、一昨年の熊本地震、 昨年の九州北部豪雨でも現地へ行き、支援活動を行いま した。(略)『なければ、つくればよい』。創るためには土台が 必要です。地域創生学群のこのキャッチフレーズは私た ち学生に『一歩を踏み出して強靭な土台作りに挑戦しな さい』というメッセージを与えてくれていたのだと4年間 を通じて体感しました。北九州市立大学で出会った仲間 たちと一緒に培った経験を財産として心に刻み、胸を 張って歩んで行くことをここに誓います」と述べ、会場に 感動を与えた。
 最後は、在学生吹奏楽団の演奏で校歌の一番、三番(北 方キャンパス編)、五番(ひびきのキャンパス編)を斉唱し て式を終えた。

松尾太加志学長告辞〈要旨〉
 卒業生、修了生の皆さ ん、卒業、修了おめでとう ございます。
 さて、卒業生・修了生の 皆さん、学位を授与される ということがどのような意 味を持つのか考えてみて ください。定められた単位 数の科目を修得する、あるいは、提出した論文が合格する ということで学位の認定はなされます。そして学歴として 履歴書に記載することができます。しかし、これらのこと は表面的なことにすぎません。大学で皆さんが学んでき たことの証が学位です。では、その学びとは何でしょうか。
 今年度、いろいろな分野で活躍した人々が注目を集め ました。例えば、平昌オリンピックでの日本人選手の活躍 は記憶に新しいところだと思います。また、将棋界では羽 生善治竜王が永世七冠を達成し国民栄誉賞を受賞された り、藤井聡太六段が連勝新記録を樹立し、数々の最年少記 録を塗り替える輝かしい戦績を収められたりしました。こ れらの成果は学びの成果だと考えられます。
 ただ、一方で、将棋の世界で現役の佐藤天彦名人がコン ピュータと対戦する電王戦でコンピュータに敗れるとい う出来事があったのも今年度のことでありました。人の学 びは、コンピュータの学びに敗れてしまったのでしょうか。
 今、人工知能の第3次ブームと言われていますが、ちょ うど皆さんが生まれた頃が、第二次の人工知能ブームの 後半でした。当時、私自身、今注目を浴びているディープ ラーニングの基礎となるニューラルネットワークの研究を 心理学の観点から行っておりました。その頃は、将棋の手 数の組合せの天文学的数字を考えると、コンピュータが プロの棋士に勝てるなどとは到底考えられませんでした。
 それを可能にしたのは、膨大な棋譜データ(将棋の指し 手のデータ)によるものです。コンピュータが膨大な知識を 蓄えることができるようになったのです。コンピュータの性 能が格段に向上したとともに、電子化されたデータの利用 が可能になったためです。今、インターネットを介して様々 なデータをビッグデータとして活用できることが人工知能 にとって有利に働いています。しかし、残念ながら人間には それだけの知識を得ることはできません。皆さんが在学中 に数年かけて得てきた知識を、コンピュータは一瞬にして 記憶してしまうことでしょう。だからといって、人工知能が 人に勝っているというわけでもありません。それは今の人 工知能の学習と人の学びが根本的に異なるからです。
 たとえば、ひとつの曲をピアノで弾くことを想像してみ てください。人工知能ロボットは高名な演奏家の演奏から 学習し、ほとんどそっくりに弾くことができるかもしれま せん。また演奏データさえあれば、そのデータをコピーす ることで、どんな曲でも弾くことができます。わかりやすく いうと、コンピュータはデータをコピー&ペーストするだ けで学習したことになるかもしれません。しかも、今やそ のデータはネット上に存在し、その量に制限はなく、処理 のための時間も短いため、何でもできる万能機械のように 思えてしまいます。
 一方、人間はそのようなことはできません。1つの曲を 演奏するまでにとてつもない時間を要します。しかし、そ こで試行錯誤に学習していくプロセスが重要で、その学 びによって知識や技能が精緻化されていきます。そして、 そこで時間をかけた学びが、また新たな曲を演奏する際 に活かされ、次のステップでは短い時間で学習できるよう になるはずです。
 今の人工知能は、あらかじめ定められたアルゴリズム で学習を進めていくだけで、いかに多くのデータを蓄積し 学習するかがその性能を決めてしまいます。しかも、その データをアルゴリズムに沿って計算しているだけで、それ が何を意味しているのか、何を学習しているのか、人工知 能自身は何もわかっていません。
 一方、人間は学びそのものを学習していきます。そして、 その学びがどのような意味があるのかを学習します。その ため、あるひとつの学びが、めぐりめぐって次の学びに活 かされるのです。その学びはコピー&ペーストとは違いま す。出会いが紡ぐ学びです。
 皆さんは在学中に数多くの学びと出会っています。授業 で先生の話を聞く、学生同士で議論し合う、自分の意見を発 表する、本を読む、いろいろな場面があったでしょう。そこで 出会えた知識や技能を完全に習得することはできなかった でしょう。しかし、わからないなりに考え、すでに自分が持っ ている考えとどう異なるのか、自分がこれまで抱いていた考 えをどう修正すればよいのかといったことが頭の中で繰り 返されたはずです。このプロセスが学びを深化させていく のです。こういったプロセスが学びを紡いでくれるのです。
 もし、皆さんの学びが単なるコピー&ペーストであれば、 それは学習したことにならないでしょうし、そうであるとす れば、そのときは確実に人工知能には負けてしまうでしょう。  学位は、数多くの学びを経験してきたことを示す証で す。単なる知識や技能の積み重ねではなく、出会いを通し て紡がれた学び、それがみなさんの学位の証であるので す。そして、本学を卒業・修了し新たな社会に飛び込んだ ときに、次なる学びの出会いへの大きな糧になることを保 証するものです。
 ただし、その証が花開くのは、時を重ね、10年、あるいは 20年先のことであるかもしれません。そして、そのとき、 大学で学んだことが活かされたと意識することはないか もしれません。学びの成果とは、むしろそのようなもので、 意識されるものではありません。すでにそれが自分の学 びとなって当たり前のものになっているからこそ、意識さ れないのです。逆に意識されるときは、もっと学生時代に 勉強しておけばよかったということに気づいたときです。
 10年、20年経ったときに、皆さんは、どう感じているで しょうか。皆さんにとって、北九州市立大学での学びが、新 たな学びに活かされるときがめぐってくることを願い、私 の告辞といたします。

津田純嗣理事長挨拶〈要旨〉
 企業の業績改善や高水 準の有効求人倍率など、日 本経済には明るい兆しも 見えてきました。この成長 軌道を確かなものとする ため、大きな壁となる少子 高齢化に対応すべく、国に おいては人づくり革命と生 産性革命を車の両輪とした経済政策が進められています。
 人づくり革命の取り組みの一つとして、知の基盤となる 大学をはじめとする高等教育の重要性が掲げられ、卒業 される皆さんは、イノベーションを創出し、国の競争力を 高める原動力として期待されています。
 一方、生産性については、IOTやAI、ビッグデータ等の 革新的技術を活用した第4次産業革命により劇的に変化 する時代が近付いています。
 このように、これまでの社会システムや産業構造など皆 さんを取り巻く社会環境は変革の時代を迎えていますが、 これまでも技術革新によって新たなビジネスモデルが創 出されてきたように、活躍の機会を掴む絶好のチャンスで もあり、果敢にチャレンジしていただきたいと思います。
 また、グローバル時代に対応していくため、在学中から高 い意識を持ち、グローバル人材の育成プログラムを通し て、高度な語学力を身に付けるとともに、留学や海外イン ターンシップにより貴重な体験をされた方も数多くいらっ しゃいます。こうした在学中に得た知識や経験は、世界とい うフィールドにおいて、大いに活かされることと思います。
 皆さんには、地域や社会に貢献する人材を目指していた だきたいと願っていますが、その過程においては、抱いて いる希望とのギャップや様々な苦難に直面することもある と思います。その経験も自分の糧としながら、現代社会を 牽引するリーダーへと成長されることを期待しています。
 最後になりますが、これまで皆さんの成長を見守り、支 えてくれた方々への感謝を忘れず、本学の卒業生である ことに誇りを持ち、自らの人生を切り拓いてください。皆さ んが新天地で大いに活躍されることを祈念いたしまして、 私の挨拶といたします。

大庭亜美さんの謝辞〈要旨〉
 「なければ、つくればよ い」地域創生学群が設置 された当初から掲げてい るキャッチフレーズ。地域 の再生と創造に貢献でき る人材の育成を目的に知 識・理論・実践力を身に着 け実際に地域へ飛び出し て活動を行う、地域社会に一番近い大学生が集まる学部 です。私は、この学群で様々な事に挑戦しながら4年間を 過ごしてきました。
 そして今日、北九州市立大学を卒業いたします。  私が地域創生学群へ入学を決めたのは2011年に発生 した東日本大震災がきっかけでした。高校3年生の夏。私 は初めて宮城県を訪れ、被災状況を見て回りました。自分 の足で被災地に立った時、頭の中の想像と現実に大きな 差を感じ、心を打たれたことを今でも鮮明に覚えていま す。日本で起こった災害について何も知らない自分がもど かしく、悔しい思いもしました。だからこそ「被災地での出 会いとこの経験を1回きりにしたくない」と心の底から思 い、大学生になっても支援活動を継続するために北九州 市立大学を選びました。
 こうして私は4年間、地域共生教育センター421Lab.の プロジェクトに所属し、被災地での支援活動を続けまし た。半年に一度東北を訪れ災害ボランティアセンターや 仮設住宅で活動を行いました。また、一昨年の熊本地震、 昨年の九州北部豪雨でも現地へ行き、支援活動を行いま した。この活動は地域創生学群の学生だけでなく、 421Lab.を通して他学部の学生と一緒に活動を行うこと が出来たため、自分の価値観に捕らわれず、新しい考え方 に触れる機会にもなりました。他にも障がい者スポーツや 就職支援活動、公立大学学生大会。何もかもが初めてで、 周りに支えられながらこのような貴重な経験をすること ができました。
 活動する中で悩んだ時は、一番苦労を知っている学群 の仲間や先輩、後輩に相談して話を聞いてもらい、違う視 点でのアドバイスが欲しいときは他学部の友人に協力し てもらいました。そして最後に学生目線だけでなく、地域 へ出る前の最終的なアドバイスとして先生方にご指導い ただきながら一つ一つの活動と真剣に、全力で向き合っ てきました。これだけ学生がやりたいことのサポートを し、背中を押してくれる学群、大学に出会えたことは私の 人生にとっても非常に大きな分岐点になったと感じます。 切磋琢磨し合った仲間や先輩、後輩、多方面でのバック アップをしてくださった教職員の皆様方へ、心から感謝申 し上げます。
 そして、何より一番近くで支えてくれた両親へ。私は実 家から4年間大学へ通いました。一人暮らしをしている同 級生からは、「実家だとご飯も出てくるし、洗濯もしてくれ るし、楽だよね」と思われていたかもしれません。本当にそ の通りです。ですが私は、周りの友人が親の目を気にせず 楽しそうな大学生活を送っているのを見て、「自分もわが ままをしたい」と言い張って母と喧嘩し、泣かせてしまっ たことがあります。その時に「あなたのことがどれだけ大 事で、どれだけ心配しているか分かってないからそんなこ とを言えるんでしょ。もう好きにしなさい」と言われてしま いました。本当はそんなことを言わせたかったわけじゃな い。「ごめんなさい」と言いたいけれど意地を張ってしま い、素直にその言葉が出てきませんでした。あの時はまだ 大学生というキラキラした生活に憧れるばかりで、実家の ありがたさが分からず、栄養を考えたお弁当を毎日作って くれることが当たり前だと思っていました。両親と何度も 衝突しながら過ごした大学4年間。実家に帰って「ただい ま」と言えば「おかえり」と言葉が返ってくることへのあり がたさを身に染みて感じました。照れくさいからと言っ て、格好つけて感謝の言葉を口に出来ない方がよっぽど 格好悪い。学生と社会人の節目であるこの日に、しっかり と目を見て感謝を伝えたいです。
 こうして振り返ると大学4年間、いろんな人に出会い、 いろんなことに挑戦してきました。私がここまで踏み出す ことができたのは北九州市立大学の環境に恵まれたから です。そして、一緒に頑張る仲間と、高め合える仲間がい てくれたからです。自分から一歩を踏み出す勇気が自分 の生きる道、生きる世界を作っていくのだと学びました。 この大学を選び、北九州市立大学の卒業生としてこの日 を迎えられたことは私の誇りです。
 「なければ、つくればよい」
 作るためには、土台が必要です。土台がしっかりしてい ないといくら積み重ねても崩れてしまいます。この地域創 生学群のキャッチフレーズは私たち学生に「一歩を踏み 出して強靭な土台作りに挑戦しなさい」というメッセージ を与えてくれていたのだと4年間を通して体感しました。
 これから先、社会人になって立ち止まってしまうことが あると思います。その時にきっと私はこの大学生活の充実 した日々を思い出すと思います。苦楽を共にした仲間た ち。この出会いが無ければこの場にも立っていなかったと 思います。本当に本当にありがとう。
 北九州市立大学で出会った仲間たちと一緒に培った経 験を財産として心に刻み、胸を張って歩んでいくことをこ こに誓い、母校の更なるご発展と、本日ご臨席賜りました 皆さまのご多幸とご健康を祈念し、卒業生修了生代表の 謝辞とさせていただきます。

菅田翔也さんの送辞〈要旨〉
 私は、先輩方から、自分 がやりたいこととやらな ければならないこととは 何かをまず考え、その上で それを実行する「行動力」 と、仲間や後輩に接する際 にどうあればより良い関 係が築けるという「理想の 先輩像」を学びました。様々なことを学ばせて頂いた先輩 方が卒業されるのはとても寂しいことですが、私の自慢の 先輩方がそれぞれの道で、さらに多くの人に影響を与え ながらご活躍されると思いますと、嬉しさがこみあげて参 ります。
 私たちや先輩方が踏み出す社会は今、目まぐるしい変 化を遂げています。人工知能などの高度技術の発展やそ れに伴う社会の変容は今後も拡大していくことでしょ う。私達を含む若い世代は、今後、多様に変化する社会を 「生き抜く力」を身につけ、そして次世代の子どもたちに 身につけさせなければなりません。皆様は小・中・高・大学 の間で約十数年間、基礎的な知識や技能を習得し、それ を活用して思考し、判断し、表現するという学びのスパン を繰り返してきたのではないでしょうか。特に大学では、 思考力や判断力、表現力を講義やサークル活動、ボラン ティア活動など様々な形で磨いてこられたのではないか と思います。皆様にはご自身で磨いてこられた能力がそ れぞれあります。そして、スマートフォンなど情報通信機 器が急速に発展しその転換を比較的若い段階で実感し、 その中で様々な経験をされてきたことだと思います。こ の能力や経験を踏まえて、自ら考え、上手に用いることが できれば、きっと社会の困難や目の前の課題に立ち向か えるのではないでしょうか。
 今、皆様の目の前にはそれぞれの道がありますが、大切 なのはどの道を選ぶのかではなく、皆様ご自身が選んだ 道で、どれだけ精一杯頑張れるかだと思います。自分の進 むべき道を信じて、一歩一歩前へ進んでいって下さい。

北友会会報第118号(平成30年7月15日発行)掲載