北九州市立大学同窓会

HOME > 活動> 大学だより >入学式

大学だより

2020年度 入学式

 4月3日(金)に予定されていた2020年度入学式はコロナウイルスの感染拡大を防ぐために中止された。
 新入学生は4月6日に北方、ひびきの両キャンパスで、それぞれ学科別に行われたオリエンテーションに参加。学 生証を受け取った(一部は翌7日)が、7日に緊急事態宣言が出されたため、9日から始まる予定だった第1学期の 授業は延期された。大学は学生係に「新入生サポートセンター」を設置し、新入生に質問や不安に対応した。
 教科書などは今年も生協が用意したが、いわゆる「3密」を避けるために、新入学生たちはそれぞれ、受講科目を 大学に申請。これを受けて、一人一人の学生に必要な教科書などを生協が取り揃え、学生の自宅、または居住先に配 送した。
 授業は5月7日、遠隔で始まった。先生はオンラインで学生に講義したり、事前に録画した動画やあるいは要点を 記述したパワーポイントのようなものだけをホルダーにストックしたりして授業を進めている。教室での対面授業 は普通1コマ90分だが、遠隔授業はおおむね1コマ60分。
 それぞれの講義は、受講を申告した学生がパソコン(あるいはスマートフォン)で受けるのだが、すべての科目は その受講を申告した学生しかアクセスできない仕組みになっている。
 オンライン講義はその時間にアクセスし、ホルダーにストックされた講義は学生が好きな時間にアクセスする。
 ひびきのキャンパスでも同じだが、ただ実験も多く、その場合は学部長に申告、学部長の了解を得て学生を学部 に集めて行っているという。
 こうした講義は9月末まで予定されている。

2020年度入学式 学長式辞
 新入生の皆さんご入学おめ でとうございます。今回の入学 式は、新型コロナウィルス感染 拡大防止のため中止せざるを 得ず、メッセージだけをこのよ うな形でお伝えすることに なってしまいました。
 今回のような感染症が人間の脅威となるようになった のは、農業や牧畜によって人が定住し過密な集落が生ま れたからだと言われています。人類は地球上で文明を発 達させ、都市に多くの人が住み、都市間の移動手段も飛 躍的に発達させてきました。皮肉にもそれが感染症の拡 大を加速させる形になってしまったのです。ウィルスを はじめとする微生物は40億年前から地球で生き続け進 化してきました。その進化は、人類が環境や医療の整備 により感染症の対抗手段を発達させたのに抗うかのよう に、新しく人に宿るウィルスに変異させてきたのです。ど んなに文明を発達させても、人も自然界の一動物に過ぎ ず、自然の脅威にはなす術もないことを思い知らされた のです。
 自然との共存は容易なことではありません。昨年の12 月衝撃的な事件が私たちに悲しみをもたらしました。ア フガンで献身的に活動されておられた医師の中村哲さ んが銃弾に倒れたのです。中村医師は、アフガンで診療 所を展開されておられましたが、大干ばつによる乾きと 飢えの現状を目の当たりにし、土木の勉強を一からはじ め用水路の建設に邁進されたのです。帰らぬ人となった 中村医師にアフガンの人だけではなく日本でも大きな悲 しみに包まれました。
 中村医師は、著書の中でこう語っています。「人も自然 の一部である。それは人間内部にもあって生命の営みを 律する厳然たる摂理であり、恵みである。科学や経済、医 学や農業、あらゆる人の営みが、自然と人、人と人の和解 を探る以外、我々が生き延びる道はないであろう」。中村 医師は、武力にも、自然にも対峙し、アフガンのために走 り続けた人でした。
 その中村医師は、幼少期を北九州市の若松で過ごされ ていたのです。本学の国際環境工学部、ひびきのキャン パスのある若松です。若松での幼少期に祖母から教えら れたことが中村医師の倫理観の礎になったと、自身で回 想されています。弱者は率先してかばうべきこと、職業に 貴賤はないこと、どんな小さな生き物の命も尊ぶべきこ となどです。
 今、皆さんは、中村医師が幼少期を過ごした同じ北九 州の地で新しい学びを始められるのです。勉学は知識や スキルを身につけることですが、その成果が行動となっ て現れなければ意味がありません。言葉でどんなに格好 いいことを表しても、それは口先だけの誤魔化しにすぎ ないこともあります。中村医師のように語らずとも行動 で示すことが何十倍にも説得力があるのです。
 行動を起こすことには、最初誰でも臆病であるかもし れません。大干ばつと格闘し続け、走り続けた中村医師 の姿に畏敬の念を抱くのは私だけではないはずです。行 動し続けることに無駄なことはありません。走り続けて いくと、そこには辿ってきた軌跡が広がっていきます。
 今皆さんはその軌跡を描くスタートラインに立ってい ます。どんな軌跡を描いていくのかは皆さん次第です。そ の途上では、息が切れて立ち止まってしまうこともある でしょう。足がもつれてしまうこともあるかもしれませ ん。中村医師も一から土木の勉強をはじめたとき、多くの つまずきがあったことでしょう。ただ何かを待つのでは なく、たとえ不器用であっても自分なりに頑張る姿が美 しくもあり、無駄ではない軌跡が描けるのです。今から走 りだす皆さんの学びを大学は応援してまいります。皆さ んが数年後に卒業・修了を迎え、自分の軌跡を振り返っ てみたとき、その軌跡はキラリと光るほうき星のように 流れていっているはずです。そうなることを願い私の挨 拶といたします。

2020年4月3日
北九州市立大学長 松尾太加志

北友会会報第120号(令和元年7月15日発行)掲載